2016 books

今年は読めたんだか読めてないんだか不明瞭な一年であった。数としては多いんだろうけど、「足りない」と枯渇している気がする。ので来年はもっと読みたいな。


大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)

大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)

去年か一昨年だかにも読んだけど、再読してみたら味わいが違った。サリンジャーはこれだから最高だ。
「何故シーモアは自殺したのか?」という謎に対しての答を私はここに見出した。
シーモアはきっと、完璧であることに耐えられない。完璧に美しい人に対して石を投げ、完璧に幸福である日に銃声を鳴らした。
「耐えられない」ということが、彼にとって最上の愛の示し方なのかもしれない。


フラニーとズーイ (新潮文庫)

フラニーとズーイ (新潮文庫)

これは嬉しい誤算と言うか…まさか村上春樹訳でしっくりくるとは思わなかった。
対面では攻撃的になってしまうのに、電話越しなら優しくなれるし、伝えようとか解ろうとすることができる。兄と妹の不器用な手の伸ばし方。サリンジャーが綴る家族愛は、決して美しくないのに、ふとした一言や仕草でどうしようもなく煌めく。
『大工よ、』と同様、風呂場でのシーンが一際冴え冴えとしていて好き。映画のワンシーンのように、くっきりと「観」えてくる不思議。


解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

鬼才と称するのがこれほどまでにマッチする男もそうそういなかったろう。医学の根本から創り変えてしまった一人の偉大すぎる解剖医学者の実録。
ノンフィクションの伝記がここまで読み物として面白いのはジョン・ハンター自身のトピックが事欠かない点も大きいが、書き手の文才も素晴らしかった。
山形浩生の解説を読めば大体わかるという手際っぷりも相変わらず。
ついつい流れで『世にも奇妙な人体実験の歴史』も借りてしまったので後日着手予定。


オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

実はスピンオフ?の『こうしてお前は彼女にフラれる』("THIS IS HOW YOU LOSE HER")のタイトルが気になっていて、まぁまずはと思って読み始めた一作目。
ドミニカの呪われた一族の話。文章がとにかく異質、唯一無二の味がする。「全く新しいアメリカ文学」と絶賛される理由が、(たとえ翻訳であっても)読めばわかる。新しい文学って生まれるんだなぁと感動した。


オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所

オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所

失われた場所・地図にない場所・誰もいない場所・廃墟と化した場所・手出しできない場所・飛び地と未承認国家と浮遊島。
…目次でこの羅列を目にして、オモシロソウって思わない? わくわくしない??
以上6つの章から成る本書は、単に特異な場所を紹介する本ではない。写真満載で「わー世界には面白い場所があるなー」って眺めて消費するような、そういう本では全くない。
「はじめに」と「おわりに」を読めば、著者の言いたいことは明快であり、6章はその論旨を補足する為の事例集だと思った方がベター。そこさえ踏まえた上で読んでもらえれば、"人と場所"の関係について様々な角度から考える一助となる名著である。
「わたし」が「今」「ここ」に居る意味を思い知る為には、わたしの手の届かない「どこか」を知る必要があるのだ。


蜜の残り (角川文庫)

蜜の残り (角川文庫)

加藤千恵作品をせっせと読み進めた年でもあった。
いつも平均的にさらっとした読み心地の掌編を綴っているが、今作で印象的だったフレーズがあるのでピックアップ。
「当時わたしは、男子というものが、同じパックに入った卵みたいに見えていたから、一つずつを取り出して、ああでもないこうでもないと言い合える彼女たちが不思議だった」…ハハハ、痛快。