2014 SF

今年もいろいろありましたが、最も語り易いのではと思ったので2014年の読書を振り返ります。
普段は読書メーターで備忘録としてメモ的に書き残していますが、ここではもう少し俯瞰気味に書けたらいいな。
まずは今年特に力を入れたSF篇。


象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

「私の墓にはこの本を入れて下さい」とお願いするであろう一冊。
『グラン・ヴァカンス』で、なんて美しき世界を容赦なく描く作家なんだろうと惚れる。
『ラギッド・ガール』で、一文一文を読むだけでこんなにも官能を得られるような小説があっていいのだろうかと震撼する。
そして『象られた力』を読んでしまったのである。短篇集だが、何と言っても表題作ですよ。
彼に関しては、語ってところで何の意味もないと批評を諦めています。飛浩隆が編む言葉は「力」そのものだと、読んだ人が体感する他ありません。
「清新であること、残酷であること、美しくあること」。〈廃園の天使〉シリーズの一作目で、著者が語った理念が余すことなく実現されていくのを、どうぞ確かめて下さい。

 

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

ドラえもんの大長編シリーズでも、多くの人にとって思い出深い作品なのではないだろうか。リルルという名の別惑星のロボットの生涯は、観た人の心にそっと傷を残していく。
「いやいや、漫画/映画のノベライズ本なんてどうせプロットみたいなモンでしょ」などと半笑いで読み始めたあの日の私をぶん殴りたい。ドラえもん、タイムマシン出して。それからケンカ手袋も。
瀬名秀明という堅実なSF作家の手で、原作コミックの一コマ一コマが丹念に解きほぐされていく。こんなにも濃度の高い作品だったのか、と驚愕しっぱなしでした。
オリジナルシーンもちょこちょこ書き足されていますが、原作ガチ勢の皆さん、「勝手に手を加えただと!?」などと息巻く前にお読みなさい。小説家ならではの濃やかな配慮で、のび太スネ夫しずちゃんが生き生きと動いています。「人間らしさ」や、純真無垢なだけではない「子供らしさ」を熱のように感じ取って、肌が火照る思いがするでしょう。


煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

これも友人からのお薦め本。短篇集ですが、どれも良かった。
SF界隈の中でも「あんなこといいな、できたらいいな」とちょっとファンタジーな近未来を想像してみるのが好きなタイプの人だと思いました。ライトなSFにほんのり恋愛要素を加えられたら、そりゃ読み易くて好きになっちゃいますよね。
『妙なる技の乙女たち』『フリーランチの時代』も愉しく読みました。『天冥の標』は代表作だけれど、着手できるかどうかは未定。


紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア (電撃文庫)

ライトノベル層もSF層も絶賛しており、その評価が長く途絶えないので気になっていた一冊。読んで良かった。
「自分以外の人間がロボットに見える」という特異な少女・ゆかりの話と、ゆかりを救う為に世界を何巡もする話。SF成分だけでは不足で、これをライトノベルの形式で書いたことが素晴らしい。前篇でイマイチだなと感じるかもしれませんが、そこで本を閉じてはなりませぬ。「ふぅ、何だこんなモンか?」と溜め息吐きながらでも、とにかく後篇へ突入して下さい。予想できなかった疾走感をお約束します。
ヴィークルエンド』も大好きなので悩みどころなんですが、纏まりの良さとインパクトではこちらかな。いやでも『ヴィークルエンド』も推したい。むむ。


MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)

MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)

友人からの紹介本。読んだ時に即買おうと思ったら重版未定の状態で絶望しかけましたが、その数ヶ月後に奇跡の復刊を遂げてくれました。愛読者の声が多かったのだと思うと涙が出そう。
ドラッグ・パンク・ノヴェルと銘打ってありますが、これほどジャンキーになれる本も珍しい。牧野修は他に『奇病探偵』『楽園の知恵』を読んだが、「言葉の酩酊」っぷりが興味深いと感じました。「病」「味」も重要なキーワードだと思うけれど、時折挟み込まれる詩的な(つまり文脈から飛び出すような唐突な)言葉の用い方が魅力。「月、剣、爪、シーラカンスブーゲンビリア」にゾクゾクできたのは、クライマックスへの話の持って行き方も勿論のこと、この絶妙なアンバランスさで成り立つフレーズ自体に美しさが宿っているからだろう。


SF畑が広すぎるので、何か指針でもあればいいのになーと思ってたら、やっぱりありましたアンソロジーシリーズ。よくぞ集めたな、という信頼のラインナップが安定して続いていくから凄い。「大森望責任編集」と大々的に銘打ってるだけのことはある。
現在4巻まで読了、今後はのんびり追っていけたらと思います。各巻でお気に入りのお話は以下の通り。
藤田雅矢エンゼルフレンチ
津原泰水「五色の舟」
小川一水「ろーどそうるず」
 浅暮三文ギリシア小文字の誕生」
京極夏彦「最后の祖父」